「未来のために、残したい。」エイシン不動産株式会社・岡本社長が、行き場を失った北海道の土地を未来へつなぐ理由

子供たちの未来に関わる仕事というと、先生や指導者のように、何かを直接教える仕事を思い浮かべるかもしれません。

エイシン不動産株式会社の岡本卓也社長も、かつては「自分にはできない」と考えていたそうです。

「僕はバスケットも勉強も、教えてあげられないんですよ」

それでも、自分にできることはないか。そう考える中で目を向けたのが、原野商法などさまざまな経緯から、売ることも手放すことも難しくなった北海道の土地でした。

行き場を失った土地を引き受け、適切に管理しながら未来へつないでいく。そして岡本社長が未来へ残そうとしているものは、土地だけではありません。離れて暮らす家族の安心につなげる「鍵の無料預かり」や、スタッフが「この会社に入ってよかった」と思える会社づくりにも、その考えはつながっています。

今回は、ミュージシャンを目指した10代から、花屋を経て不動産の仕事にたどり着くまでの道のりと、その先で見つけた「自分にできる方法で、今あるものを未来へつないでいく」という考えについて伺いました。 

お話を伺った人

エイシン不動産株式会社

代表取締役社長 岡本 卓也

高校に進まず、ミュージシャンを目指す。19歳で断念したのち、花屋で働くために通信制の高校へ入学。複数の花屋を経てエイシン不動産株式会社に入社し、データ入力から売買の営業までを担当。5年ほど前に代表取締役社長に就任。北海道苫小牧市を拠点に、不動産の売買と買取、賃貸管理、空き家管理を手がけている。

目次

気持ちがないと成り立たない商売だな、と思って

編集部

エイシン不動産さんは、苫小牧で長く続いている会社なんですよね。その代表を務める岡本社長ご自身は、もとはミュージシャンを目指していらしたと伺いました。

岡本社長

そうです。ミュージシャンになるつもりで、高校にも行かないで、ずっとそれ一筋でやっていました。ただ、19歳で見切りをつけまして。そうしたら生きる目標を失ってしまって、これからどうしていこう、自分はどうなりたいのかな、と考えたんです。

編集部

そこで、何が浮かんだんですか?

岡本社長

お花屋さんって、すごいなと思ったんですよ。というのも、お花って極端な話、世の中になくてもいいものじゃないですか。少なくとも僕の人生には必要のないものでした。それなのに、人にプレゼントしたり、亡くなった方に供えたりする。つまり、気持ちがないと成り立たない商売だなと思ったんです。

編集部

なくても困らないものだからこそ、気持ちが要る…!

岡本社長

そうなんです。それで、飛び込みで花屋さんに行って、「働かせてほしい」とお願いしたんですよね。そうしたら、あなたの履歴では雇えない、中卒だと難しいと言われまして。ただ、通信制でも定時制でも何でもいいから、高校に入学したらおいで、と言ってくださいました。

編集部

断られたのではなく、条件を出してくださったんですね。それで、どうされたんですか?

岡本社長

入学しました。それで、その日のうちにお花屋さんへ行って、入学しましたと伝えたんですよ。そうしたら、明日から来い、と雇っていただきました。

編集部

入学したその日に…!

岡本社長

ええ。それで、働かせてもらうことになったんです。

編集部

念願のお花屋さんですね…!実際に働いてみて、いかがでしたか?

岡本社長

楽しかったですよ。ただ、しばらくして、「お前には向いてない」と言われましてね。

お前面白いから明日から来い

編集部

念願の職場で、そう言われてしまったんですね。

岡本社長

それでも、お花だけは絶対に諦めたくなかったんですよ。スーパーの中にある花屋から、ウェディング、アレンジメント専門、葬儀用まで、いろいろなお店を点々としました。ただ、行く先々で同じことを言われましてね。「お前に花屋は向いてない、営業が向いてる」と。

編集部

なるほど。その言葉は、どう受け止められたんですか?

岡本社長

将来はお花屋さんを持ちたかったので、まぁ、営業ぐらいやっておかないと経営は難しいだろうな、と。それで営業の仕事を探し始めたんですけど、履歴書を見ると鼻で笑われるような経歴でしたから。面接をたくさん受けて、自分を否定されたような経験もしました。履歴書を投げられたこともあります。

編集部

それは、こたえますね…。

岡本社長

そんな中で、いまの会社の当時の社長が「お前面白いから明日から来い」と言ってくださって。それで拾ってもらったんです。その恩もあって、一生懸命働こうと思いました。

編集部

なるほど。それで、不動産のお仕事に就かれたんですね。

岡本社長

ただの営業だと思っていたんですけど、実際にやってみると意外と気持ちが必要な仕事だったんですよね。お花屋さんに求めていた部分が、不動産屋にもあった。それで、すごく楽しくなってきました。

編集部

気持ちが必要、というのは?

岡本社長

例えば、子供の頃に育った家を売りたいと来られるお客様がいたりするわけですけど、その思い出のある家をただ売ればいいわけではなくて。どうやって買い手に最大限に魅力を伝えて、どう評価してさしあげるか。売主さんにも、家にも買い手の方にも寄り添うところは、すごく意識しています。

編集部

それが、”気持ち”…!

岡本社長

印象に残っているのは、家を販売するときに動画を撮ってさしあげたことですね。もちろん特定されないようにはしているんですけど、お父さんお母さんが大事にしてきた家がいつでも見られる、ありがとう、と。僕たちは買主さんへのアピールのつもりだったので、売主さんにも喜んでもらえるんだと驚きました。

それでも何か、自分にできることは

編集部

これから力を入れたいのは、地域や社会の課題を解決することだと伺いました。その1つ目が、相続の不動産だそうですね。

岡本社長

そうなんです。北海道には原野商法というものがありましてね。昔、山の中の不動産が、2年後には倍以上になる、新幹線が通る、道路ができる、と言われて売られた時期があったんです。

編集部

それを買われた方は、いまどうなっているんですか?

岡本社長

いま、すごく困っていらっしゃいます。山奥のどこにあるかもわからないような不動産を、誰ももらってくれないし、売れない。それを子供や孫に相続させなければいけない状況にあるんですよ。

編集部

うーん…、相続を放棄するという手もありそうですが…。

岡本社長

それだけならいいんですけど、預金があると、いらない不動産まで一緒に引き継ぐことになるんですよね。ただ、不動産屋がもらうのもリスクがあります。そこを僕たちが有料で引き取らせてもらって、あとは手を入れて管理していく。そうすれば、将来の北海道のために使える形で残せると思っているんです。

編集部

たしかに、放っておけば誰かが困り続けますもんね…。でも、なぜそこまでされるんでしょう?

岡本社長

さまざまな経緯で所有することになった土地でも、単に「いらない土地」「価値のない土地」として終わらせるのではなく、未来につなげられるものにできないかなと思っています。 かねてから、学校の先生だったり、習い事を教える方だったり、子供たちの未来を作っている商売って素晴らしいなとずっと思ってはいたんです。一方で僕はバスケットも勉強も、教えてあげられないんですよ。それでも何か子供のためにできることはないかな、と考えましてね。

編集部

引き取った土地は、その後どのようにしていく予定なんでしょう? 

岡本社長

手を入れて、しっかりと管理していきます。林業の方から、 山林は将来にわたって活かしていくためには、適切な管理が必要だと教えていただきました。ただ、林業の方は不動産の知識がないそうで、「不動産屋がやってくれるならいい」と言われたんです。 

編集部

ほかにも、放っておくと起きてしまうことってあるんですか?

岡本社長

例えば太陽光発電ですね。太陽光発電そのものを否定しているわけではありません。ただ、20年後、30年後に設備をどうするのか、撤去や管理まで責任を持って考えることが大切だと思っています。将来、使われなくなった設備だけが北海道の土地に残ってしまうことは避けたいんです。

万が一のときに、鍵を持っている人がいる安心

岡本社長

もう1つ注力していきたいのが、鍵の無料預かりですね。北海道は田舎なので、息子さんや娘さんが都市に出ていて、親御さんが1人で住んでいる家が多いんです。80歳、90歳でも、施設には行きたくない、私は元気だから1人で生きていける、という方も多くて。

編集部

その1人で住んでいる方の身に何かあった場合に、ご家族がすぐに駆けつけられないケースも多そうですね…。

岡本社長

そうなんです。離れて暮らしていると、「親と連絡が取れないけれど、すぐには見に行けない」ということもありますよね。そんなとき、地域に鍵を預かっている人がいて、必要なときに確認に行けるだけでも、ご家族の安心につながると思ったんです。それで、鍵をうちで無料でお預かりしますよ、と。連絡が取れないから見に行ってくれないか、と言われたら、実費はいただきますが確認に行きます。 

編集部

無料で…!ただ、警備会社に頼むという手もありそうですが…。

岡本社長

ご家族が24時間の警備会社に頼むとなると、ハードルが高いなと思ったんですよね。今日会社を立ち上げました、鍵を預けてください、と言われたら不安ですけど、長年やっている不動産屋なら安心してもらえるんじゃないかなと。

編集部

たしかに…。ちなみに、鍵を預けるときには、売却とかそういった契約が必要になるわけではないんですよね?

岡本社長

全くないです。鍵をお預かりする契約はさせてもらいますけど、それだけです。知り合いに渡してあげてくれ、と言われたら、そのままお渡ししますし、費用もかかりません。

編集部

驚きました。それでは、会社としての利益はどこで出るんでしょう?

岡本社長

鍵をお預かりした、その先にあると思っています。もちろん、今の目の前のお金を作るのも大事です。ただ、5年後、10年後にどうやってお金を作るのかを考えないと、働いているスタッフが疲弊しちゃうんですよね。今の売上だけを作っていく事業は、すごく辛いなと。

落ちてる幸せを、拾える人

編集部

スタッフの方のお話が出ましたが、異業種から転職された方も多いと伺いました。不動産会社というと、歩合で頑張った分だけ返ってくるイメージがあります。

岡本社長

そうなんです。ネイリストやホテルスタッフから転職してきた方もいますし、同業者は実は少ないんですよ。ただ、うちはちょっと変わった不動産屋なんです。元は歩合だったんですけど、それをするとスタッフが育たないところがあって。歩合で稼ぎたいという方には、他の不動産屋さんのほうがいいですよ、とお伝えしています。

編集部

それは、どうしてですか?

岡本社長

弊社の場合は、歩合を強くすると、どうしても個人の数字を追う意識が強くなってしまうと感じたんです。それよりも、お客様にとって何が一番良いのかを、みんなで考えられる会社にしたい。それに、1人で数字を作る形にすると、中長期で見たときに会社として人を育てていくのも難しくなると思ったんですよね。 

編集部

では、やりがいはどこにあるんでしょう?

岡本社長

“みんなでやっている”ところですね。1人でやらないで、1つの案件にも何人かで寄り添う。だから、自分だけで稼いでいる形にはなっていないと思います。あとは、いつでも休める、子供の用事で休める、長期旅行に行ける。よくも悪くも、緩いと思います。

編集部

募集はいま止めていらっしゃると伺いましたが、もしもこの先に迎えるとしたら、どんな方に来てほしいですか?

岡本社長

ポジティブな考え方を持った方ですね。どうしても、悪いこと探しや人の穴探しをしてしまう方がいて。ただ、そういう方からは人が離れていきます。目の前に落ちてる幸せをちゃんと拾える人が、大事だなと思っています。

編集部

落ちてる幸せを拾える人…!素敵な言い方ですね。最後に、岡本社長が目指していらっしゃるところを教えてください。

岡本社長

ここに入ってよかったな、と思ってもらえる場所にしたいですね。家族から、お前のところっていいね、とスタッフが言われる。そんな会社にしたいです。あとは、僕が社長から引き継いだものを、未来につなげていくのが使命だと思っていて。原野の引き取りも鍵の預かりも、その先にある北海道を残すためのものなんです。

編集部

原野の引き取りも、鍵の無料預かりも、スタッフが「この会社に入ってよかった」と思える会社づくりも。お話を通して見えてきたのは、岡本社長が大切にしている「今あるものを未来へつないでいく」という考えでした。岡本社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

 

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