「人のためじゃなく、自分のために仕事をする。」エスプレッソ株式会社・河野社長が、“好きなことをして生きる”ために重ねてきた選択

「世の中のために、このサービスを作りました」
起業家へのインタビューでは、そんな言葉を聞くことが少なくありません。
しかし、エスプレッソ株式会社の河野喬之社長は少し違います。
「自分が使いたかったから作った」「自分が楽になるから広まってほしい」「会社そのものを大きくしたいわけでもない」。
言葉だけを切り取ると、少し意外に聞こえるかもしれません。けれど、お話を伺うと、その考え方には一貫した軸がありました。
河野社長が目指しているのは、自分の時間を、自分が本当にやりたいことに使える状態をつくること。
大学では数学を学び、研究者を目指していたものの、就職をきっかけにプログラミングの世界へ。新卒で入った会社を半年ほどで離れ、独立後は仕事を得るために自ら営業しながら、週100時間を超えるほど開発に没頭した時期もありました。
その後も、事業を立ち上げて売却したり、法人を解散して再び立ち上げたりと、その時々で自分に必要なものを選びながらキャリアを築いてきました。
現在はAIを活用しながら、少数精鋭組織で事業を運営。自らが感じた不便をなくすために、スケジュール調整サービス「CROSCHE(クロッシェ)」も開発しています。
「好きなことをして生きたい」。
そのために河野社長は、何を選び、何を手放してきたのでしょうか。
仕事、会社、AI、そして「自分のために働く」という考え方について伺いました。
エスプレッソ株式会社
代表取締役 河野 喬之
東京理科大学で数学を学び、卒業後にIT企業へ入社。約半年後に独立し、フリーランスのエンジニアとして活動を開始。その後、複数のプロダクト開発や事業売却を経験。現在はAIを活用した事業開発に取り組むほか、スケジュール調整サービス「CROSCHE」を開発・運営している。
研究者を目指していたのに「間違えて就職」。半年後には独立していた

編集部河野社長は大学では数学を専攻されていて、もともとは研究者を目指していたんですよね。



そうですね。ずっと数学ばかりやっていて、企業に勤めるつもりもなかったんです。ただ、親から「経験として就活くらいしておいたら」と言われて、就活を始めたのがIT業界に入るきっかけでした。



でもプログラミングにはだいぶ早い段階で興味を持っていたんですよね。



はい。プログラム自体は中学生くらいからずっと書いていました。大学では計算数学を研究していたので、それまではプログラミングって数学のために使うものという感覚だったんです。でも就活で企業の説明を聞いたときに、「Javaって、こういう使い方もできるんだ」と知って。それがすごく面白かったんですよ。そのことは、家に帰って、目をキラキラさせながら親に話していたらしいです(笑)。



そのワクワクもあって、研究の道ではなく就職を選んだんですね。



そうです。でも今となれば、僕の感覚では「間違えて就職した」なんですよ(笑)。



間違えて就職した、とは…?



:なんかこう、就職はしてみたものの、想像していたのとは全然違ったんです。エンジニアとして入ったのに、最初にやっていたのは資料整理だったり、議事録のコピーだったり。僕はプログラムを書きたかったので、「これ、僕じゃなくてもできるよね」と思ってしまったんです。それで会社にはほとんど行かなくなって、自宅でサーバーを立てて、自分で開発を続けていました。その頃から独立の準備も少しずつしていて、最終的には入社して半年くらいで辞めました。そこから、フリーランスになりましたね。



新卒半年で退職、独立って、かなり思い切っていますよね。ちなみにフリーランスを始められた直後って、お仕事の依頼は十分にあったんですか?



ないですよ。全然ないです(笑)。営業のやり方もわからなかったので、とにかくメールを送ったり、電話をかけたりしていました。「何でもやるので、何かあればやらせてください」と。返事をくれたところには連絡して、会ってもらって、仕事をいただく。一件も断らずに、全部やりました。



全部…!でも中には、条件があまり良くないお仕事もあったんじゃないですか?



ほとんどそうですよ。でも当時は、まだ自分に価値があると思っていなかったので、安くて当然だと思っていました。仕事がなかったら生活できないですから、とにかく断ることはしませんでした。だから当時を振り返ると、1週間で120時間くらいコーディングしていたんじゃないですかね。とにかく、寝る時間・食べる時間を削ってずっと書いていました。



1週間で120時間!?倒れちゃいますって、それ…。今の河野社長は、かなり自由に仕事をされている印象がありますけど、でもその働き方にたどり着く前には、相当しんどい時期があったんですね…。
会社は目的じゃない。「自分がやりたいこと」のために使う



今は法人化されているわけですけれど、「会社を大きくしたい」「この会社で何かを成し遂げたい」というお気持ちって、ありますか?



ないですね(笑)。



即答ですね(笑)。



エスプレッソ株式会社という名前も、僕がエスプレッソ好きだから付けただけです。会社自体に「これを成し遂げたい」というものは特にないんですよ。もともとフリーランスなので、会社というより個人の能力が重要だと考えていて、法人は、必要だから使っている「箱」にすぎないです。過去にはプロダクトを売却したあと、法人が必要なくなったので一度解散したこともあります。その後、また新しいプロダクトを作って「法人があった方がいいな」と思ったので、同じ名前で復活させました。



必要なら使うし、必要でなくなれば手放す。かなりシンプルですね。



そうですね。僕はたぶん、何でもそうなんですよ。必要なら使うし、必要じゃなかったら使わない。



仕事の仕方も同じですか?



そうだと思います。僕は基本的に、面倒なことが嫌いで。その面倒なものをどうやったらなくせるのかを、常に考えています。決まった時間に起きて、決まった時間に会社へ行って、誰かの指示を受けながら働くという生活も、自分には想像できなかった。だから、もっと自分のペースで、自分がやりたいことをやるにはどうすればいいかを考えてきた結果が今なんだと思います。



それでいくと、一番欲しいのは、会社の規模でも肩書きでもない…と?



はい。求めるのは、面倒がなく好きなことをやって生きていける環境ですね。たくさんお金を稼ぎたいとか、有名になりたいとか、そういう欲求もないんです。自分のペースで生きていければ、それで十分です。
「自分が面倒だったから作った」。CROSCHEが生まれた理由



その考え方が一番わかりやすく形になっているのが、スケジュール調整サービスの「CROSCHE」かもしれませんね。



そうですね。あれも、完全に自分のために作りました。







そこ、かなり好きです(笑)。何がそんなに面倒だったんですか?



「来週、空いているところを2〜3個ください」って言われることってあるじゃないですか。そのたびにカレンダーを開いて、空いているところを探して、「○月○日○時から、○月○日○時から」と書き出して送る。これ、何なんだろうと思って(笑)。毎週のように発生するのに、すごく面倒じゃないですか。



たしかに、1回の工数は少なくても、積み重なると面倒ですね。



それを解決するサービスがないのかなと思って探したんですけど、自分が欲しい形のものがなかった。だったら作ろうと。CROSCHEでは、カレンダー上で空いている時間を選んでURLを送れば、相手がその中から好きな時間を選べるようにしています。



画期的ですけど、機能はかなり絞っていますよね。すごくシンプルです。



そうですね。僕は複雑なものがすごく嫌いなんです。ボタンが100個あるようなものより、必要な3つの機能に絞って、そこを使いやすくした方がいい。だからCROSCHEも、あえて機能を増やしすぎないようにしています。ヘルプを読まなくても使えるくらいシンプルにしたかったんですよ。



たとえば、利用者から「この機能も欲しい」と言われたら、実装はしますか?



どうですかね。もちろん意見は聞きますけど、「それを必要としている人がどのくらいいるんだろう」と考えます。多くの人に必要なら入れる。でも、ごく一部しか使わなさそうなら入れないですね。機能を増やせば増やすほど複雑になりますから。



なるほど…。CROSCHEをもっと広めたいと考えている理由も、「世の中を便利にしたい」より、やっぱり自分のため、が強いですか?



自分のためですね(笑)。CROSCHEが一般的になったら、「じゃあCROSCHEで送っておきますね」で会話が終わるじゃないですか。「CROSCHEって何ですか?」という説明すらいらなくなる。そういう世界になったら、僕はすごく楽なんですよ。



本当に最初から最後まで一貫していますね(笑)。
AIでできることが増えた今、人に任せる仕事は何なのか



今って、御社では業務のどこまでをAIに任せているんですか?



もう、かなり幅広く任せていますよ。ClaudeやCodex、Gemini、GPTとか、主要なものを全部使ったとしても、月に500ドルくらいじゃないですか。それでかなり優秀な人が何人もいる状態になりますからね。



本当に、時代が変わってきましたもんね。これまで人がやっていたデスクワーク系のお仕事のほとんどが、AIにできてしまうという…。



そうですね。2年くらい前、開発などを業務委託でお願いしていた方がいたんですけど、AIでできるようになった段階で、その方との契約は終了しました。AIを本格的に使い始めた頃に、「これがあるなら、人にお願いしなくてもできるな」と思いまして。



結構早い段階で判断されたんですね。それまで一緒にお仕事をしていた人との契約を終了することに、迷いってなかったですか…?



うーん、そんなになかったですね。僕たちがやっているのは、工場や建築のように、どうしても人の手が必要な仕事ではないので。知識を使って、考えて、実装する仕事なら、必ずしも人間である必要はない。AIの方が速くできて、コストも低くて、十分なパフォーマンスを出してくれるなら、そちらを使うのは自然だと思いますね。ただ、営業は今も人にお願いしていますけど。



そこはAIにしないんですね。



メールを送ったり、問い合わせに対応したりするだけならAIでもできますよ。でも、それだけが営業ではないじゃないですか。交流会に参加して、何度か顔を合わせて、話をして、信頼関係ができて、「この人に頼んでみよう」という考えが生まれる。僕たちの場合は、そういうところから仕事につながることも多いので、そこは今のAIでは難しいと思っています。



なるほど。AIでできるかどうかだけではなくて、仕事がどう生まれるかまで見ているんですね。



そうですね。必要なところには人がいる。逆に、AIで十分できる仕事ならAIに任せる。僕の中では、すごくシンプルな話ですね。
「1日が長すぎる」。だから、好きなことをして生きていたい



ここまでお話を聞いてきて、河野社長って、そもそも仕事だけを人生の中心に置いていない感じですよね。



そうですね。今やっている仕事が、自分の中でメインの仕事という感覚もあまりないんです。僕は投資もずっとやっていて、たぶんITより投資歴の方が長いです。収入の軸になっているのも、基本的には投資です。



え、ITより長いんですか。



長いですね。実は、30代前半くらいにはフィリピンにいて、3〜4年くらいポーカーもやっていました。プロと言うほど大げさなものではないですけど、カジノを主戦場にしていた時期もあります。だから僕の中では、「エンジニアとして生きてきた」という感覚でもないんですよね。投資もするし、開発もするし、ポーカーもやっていたし、いろいろ並行しています。



そこまでいろいろやっていると、「仕事」と「遊び」の境目もあまりなさそうですね。



ないですね。僕、開発も別に仕事だと思ってやってないんですよ。好きだからやっているだけです。



でも一方で、「できるだけ楽に生きたい」ともずっと仰っていますよね。それって、何もしないで過ごすのが理想ということではないんですか?



それが、違うんですよ。僕、1日24時間が長すぎるんです。高校とか大学くらいの頃から、「人生って長いな。何をして時間を使えばいいんだろう」と思っていて。何もしないでいると、とにかく暇なんですよ。



1日が長すぎるって、初めて聞きました(笑)。



本当に長いんですよ(笑)。できるなら1日20時間くらい寝たいです。そうしたら時間が一気に進むじゃないですか。でも、そんなに寝られない。だから何かしていないと時間が進まないんです。



じゃあ、「働きたくない」というより、退屈な時間を過ごしたくない、のほうが合っていますかね?



そうですね。しかも、嫌なことをしている時間って、もっと長く感じるじゃないですか。だから、やりたくないことはなるべく減らしたい。逆に開発みたいに、自分が好きなことをやっているときは時間が進む。僕がずっと考えているのは、たぶんそういうことなんだと思います。



それを聞くと、「好きなことをして生きたい」という言葉の意味もかなり変わってきますね。何もしなくていい状態を目指しているわけではなくて、自分が夢中になれる時間を増やしたい。そのために、20代では自分で仕事を取りに行ってひたすらコードを書き、今はAIに任せられるものを任せ、面倒なスケジュール調整はCROSCHEを作って減らしてきた。数学、開発、起業、投資、ポーカー。一見するとバラバラに見える河野社長のキャリアですが、振り返るとずっと、自分が「面白い」と思えるものに時間を使うための選択だったのかもしれません。



そうかもしれないですね。僕にとっては、仕事か遊びかはそんなに重要じゃないんですよ。好きでやっているなら、もう、それでいいんです。



「人のためではなく、自分のために仕事をする」。その言葉の先にあったのは、仕事を減らすことでも、働かないことでもなく、長い人生の時間を、自分が面白いと思えることで満たしていくことでした。河野社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
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