「AIで仕事が楽になった。でも、それはみんな同じ。」株式会社filments・深瀬社長が考える、これからのクリエイターの価値

動画制作を軸に、企業のブランディングやマーケティング、動画の内製化支援まで手がける株式会社filments。
代表取締役の深瀬泰宏社長が動画の仕事で独立したのは2014年。それまでの道のりは、決して一直線ではありませんでした。
製造業を営む家庭に生まれ、高校生のときに父を亡くしたことをきっかけに人生観が大きく変化。3DCGを学んだものの思うような仕事にはつながらず、会社員、自堕落にパチスロで生活していた時期、複数の仕事を経て、ようやく現在の動画制作へとたどり着いたそうです。
一方、動画市場が拡大した現在は、「動画を作れること」だけでは差別化が難しい時代でもあります。さらに生成AIの進化によって、これまでクリエイターが担ってきた仕事の一部も変わり始めています。そんな中、深瀬社長が語ったのは、「人間の気持ちがわかること」こそ、これからのクリエイターに必要になるという考えでした。
これまでの歩みから、filmentsが動画制作の先に目指していること、AI時代に人だからこそ生み出せる価値まで伺いました。
株式会社filments
代表取締役 深瀬 泰宏
2014年に動画制作の仕事で独立し、2018年に法人化。現在は動画制作を軸に、企業のブランディングやマーケティング、動画内製化支援などを手がける。浜松を中心に、企業や地域の課題にクリエイティブの力で向き合っている。
「ちゃんと生きていかないといけない」と思った16歳
編集部深瀬社長は、専門学校で3DCGを学ばれていたそうですね。そこから今の動画の仕事につながったのかなと思うんですが、やっぱり専門学校で知識を得たからには、その後のキャリア形成もスムーズだったのでしょうか?



いえ、それが長く遠い道のりでした。いっそ、生まれたところから話した方がわかりやすいかもしれませんね。僕はもともと、旋盤を扱う製造業の4代目になるはずだったんですよ。実家で祖父が代表を務める形で家業をやっていて。ただ、かなり危険な仕事でもあったので、小さい頃から「自分はこれはやらないだろうな」と考えていました。その後、父が3代目として社長になったんですけど、僕が高校生のときに家業が傾いて、父が自死したんですよね。



えっ、高校生のときですか……。



16歳くらいでした。それまでは、4代目として育ててもらって、ある意味では甘やかされていた部分もあったと思うんです。でも、その出来事があって、人生観が変わりました。「これからは、自分でちゃんと生きていかないといけない」と思うようになったんです。



そこから、ご自身の進路を考えるようになった。



そうですね。その後、名古屋の専門学校で3DCGを学びました。当時は「ロード・オブ・ザ・リング」のようなCGを作りたいと思っていたんです。ただ、仕事としてはかなり狭き門で、思うようにはいきませんでした…。卒業後はマンションの完成予想図を3DCGで作る会社にも入ったんですが、耐震偽装問題や海外への委託増などで仕事が減って「しばらく会社に来なくていい」と言われてしまいました。正直、生活できるほどの給料では無く退社しました。



ちゃんと生きていきたいのに、まずは生活そのものを何とかしないといけない…。



そうですね。その頃にパチスロを覚えて、勝つ方法を調べて月に40万円前後勝っていた時期もありました。でも、2011年の震災があって、不安に感じた母から今住んでいる浜松へ来てほしいと言われたんです。そのときは26歳くらいだったんですけど、「さすがに、この生産性のない生活をずっと続けるわけにはいかないな」と思って、浜松へ行きました。
「自分に合うステージがあれば、活躍できる」根拠のない自信はあった



浜松へ行って、すぐに今の仕事に出会ったんですか?



いや、実はそこからもしばらくフラフラしていましたね(笑)。仕事も転々としていました。ただ当時、なぜか自信だけはあったんです。



自信?



「今は自分に合う仕事に就けていないだけで、自分に合ったステージさえ用意されれば活躍できる」と思っていました。今振り返ると、本当に何の根拠もない自信なんですけど…。



でも、その感覚自体はずっとあったんですね。



ありましたね。その後、デジタルサイネージの事業部を立ち上げる会社と縁があって、そこに就職しました。ただ、当時はまだデジタルサイネージが少し時代的に早かったのか、事業があまりうまくいかなかったんです。それで会社から、「事業部を閉じるから、パソコンとカメラをあげるし、独立したら?」と言われたんですよ。



えっ、会社側から独立を勧められたんですか!



そうなんです。ちょうどYouTubeの創世記で、「動画元年」みたいな言葉も出始めていた頃でした。会社として大きな事業にするにはまだ時間がかかるかもしれないけど、自分一人が生活していくくらいなら成り立つんじゃないかと思って、2014年に独立しました。



最初は個人事業主としてですか?



はい。経営のことなんて何もわからなかったですし、いきなり法人にする知識もなかったので。それに、父のこともあったので、母は自営業をすることに抵抗があるんじゃないかと思っていたんです。でも「実は自分でやりたいと思っている」と話してみたら、母から「あんたはそういう生き方しかないね」みたいに言われて(笑)。見抜かれていたのかなと思いましたね。



なるほど…。では、最初は手探りでのスタートだったんですね。



そうですね。本当に右も左もわからなかったので、浜松の創業スクールに通いました。税務や労務も勉強したんですけど、一番大きかったのは、そこで起業する人たちとのつながりができたことですね。その中から仕事をいただいて、その仕事が次の仕事を呼んで。少しずつ生活できるようになって、アルバイトも雇うようになり、2018年に法人化した形です。
「動画を作る会社」から、企業の課題を一緒に考える会社へ



長く遠い道のり…。ここまでのお話を聞いて、その言葉の意味が理解できました。それで今、filmentsさんは「映像制作会社」ではなく、あえて「動画制作会社」と名乗っているんですよね。



そうですね。「動画」と「映像」はもともと近い意味で使われてきた言葉ですが、今は媒体や見られ方に応じて使い分けられることが増えています。ただ、業界全体で厳密な境界が決まっているわけではありません。僕はクリエイティブの仕事をしていて、言葉を扱う以上、自分が使う一つひとつの言葉に説明ができないのはダサいと思っているんです。だから、うちは「動画制作会社」と明確に名乗っています。



深瀬社長の中では、どう分けているんですか?



僕の中では、映画やテレビのように、ある程度その場に留まって受け取る作品を「映像」と捉えています。一方、YouTubeやSNSで見る「動画」は、スマートフォンで流し見され、「つまらない」と思ったらすぐ閉じられてしまう。だからこそ、短い時間の中に情報を圧縮したり、「もっと見たい」と思わせたりする設計が必要になります。これは辞書上の厳密な定義というより、僕たちが仕事をするうえで大切にしている使い分けです。



すごく腑に落ちる説明でした。今は、その動画を作りつつ、ブランディングやマーケティングにも関わってらっしゃるんですよね?



そうですね。今は、ブランディングやマーケティングの手法として、動画を得意領域にしている会社という感じです。以前は動画制作そのものが中心でした。でも、動画市場が伸びて競合も一気に増えた時期があって。新しく始めた会社は「ショート動画に強い」「ドローンに強い」みたいに特化できたんですけど、うちは早くからやっていた分、いろいろな仕事を受けていたんですよ。逆に、それが理由で「何が得意な会社なのか」が見えにくくなった時期がありました。



幅広くできることが、一度は弱みにもなったと。



そうですね。でも振り返ってみると、ホームページを作ったり、デザインをしたり、動画以外の仕事も含めていろいろ経験してきたからこそ、経営やブランディング、マーケティングまで含めて見られるようになったんです。今はそこが、逆に強みになっています。



動画一本を納品して終わりではないんですね。



そうですね。企業様と長く付き合いながら、売上を伸ばすとか、動画を中心にいろいろなクリエイティブの力を使って、企業の課題を解決する方向に事業を移しています。動画の内製化支援もその一つですね。僕たちは「DX」を、デジタルトランスフォーメーションではなく、「動画トランスフォーメーション」という意味でも使っています。動画をプロモーションだけではなく、教育マニュアルに使ったり、社長の考えを社内へ共有するために使ったりする。企業が動画を使えるようになると、できることの手札が増えるんですよね。
AIでみんな仕事が楽になった。でも、“みんな”なんですよね



今は生成AIも一気に広がっていますよね。動画やクリエイティブの仕事も、かなり変わっていきそうです。



そうですね。僕は過去に売上を落とした経験もあるので、コロナや今回のAIの発展などの環境変化を自分に都合よく考えないようにしているんです。AIで仕事が楽になりました。でも、“みんな”なんですよね。自分たちだけがAIを使えるわけじゃない。だから、「AIを使って仕事が楽になった」「今までできなかったことができるようになった」の、その先で、じゃあ自分たちは人として何ができるのかをすごく考えています。



考えた結果、何が重要か、その答えって出ましたか…?



人間の気持ちがわかることですね。AIが出てきて、実際にデザイン会社が倒産するような話も出てきているじゃないですか。それを見ていると、これまでクリエイティブだと思っていた仕事の一部が、実はオペレーションだったと気づかされたりとか。情報を決められた場所にうまく配置する。決められた作業をきれいに行う。そこはAIでもできるようになる。でも、本来のクリエイティブって、その先ですよね。



「何を作るか」より、「なぜそれを作るのか」を考える部分…。



そうです。たとえばチラシ一枚でも、「どうしたらもっと集客できるのか」「お客様は何を知ったら来てくれるのか」を考える。動画でも「20代女性向け」だけではなくて、その中のどんな人に届けたいのか、何に興味があって、どんな感情なら動くのかまで考えていく。AIは成果物を作れても、それがその人の気持ちをどう動かすのか、そもそも何が必要なのかを判断するのは人間の仕事だと思っています。



技術を持っていることより、相手を理解しようとする力の方が重要になってくると考えているんですね。



そうですね。それに、撮影もそうだと思います。生成AIで全部作ってしまえばいいという話ではなくて、実際の会社や人を撮るから伝わるものもあります。これからは、誠実性もより求められると思うんですよね。だからこそ、人が撮ること、人と人が向き合うことは大切だと思っています。
自社だけが儲かるのではなく、地域に動画を作れる会社を増やしたい





これからfilmentsとして、一番やっていきたいことは何ですか?



今は、やっぱり動画の内製化支援ですね。僕らが全部作るというより、企業自身が動画を作れるようにしていきたいです。



あの、制作会社としては、自分たちに依頼をいただける方が仕事にはなりませんか…?



そうなんですけど(笑)。一社が自分で動画を作れるようになる。それだけなら一社の話ですけど、浜松で自社の動画を作れる会社が増えていけば、その分、浜松の情報が世の中に出ていくじゃないですか。それが点になって、面になって広がっていけば、地域としての経済圏も広がっていくと思っています。



一社の売上だけではなく、地域全体に広げたい…。



そうですね。浜名湖うなぎの仕事もそうなんですけど、自社だけが儲かればいいとか、お客様一社だけが儲かればいいというのは、あまり広がりがないと思っているんです。それが周りにも広がっていくような形にできたらいいですね。


「浜名湖うなぎ「でしこ」/プロの料理人たちが絶賛する新たなうなぎの可能性」YouTubeで動画を視聴する



なるほど…。ちなみに今後、人も増やしていきたいですか?



やりたいことは結構あるので、それを試すためには人が必要だと思っています。ただ、「稼ぎたい」「会社を大きくしたい」が先にあるわけではないです。なので、もし採用するなら、僕らがやりたいことやミッション、ビジョンに共感してくれる人がいいですね。



それって、未経験でも可能性はありますかね?



経験が浅くてもいいと思っています。ただ、完全に何もしていない状態で「教えてもらいたい」だけだと正直、難しいですね。たとえば「動画クリエイターになりたいと思って2年経ちました」と言われたときに、その2年間、本当に思っていただけなのか。それとも自分で何か作ったり、勉強したりしてきたのか。そこは見ます。



経験年数よりも、実際に動いてきたかどうか。



そうですね。やる気があって、努力してきた形跡があれば、それを伸ばしてあげることはできると思っています。この業界やクリエイティブに対する愛がないと続かないので、自主性は絶対に必要ですね。



製造業の4代目として育ち、16歳で人生観が変わり、思うような仕事に就けなかった時期やパチスロで生活していた時期も経て、動画の仕事で独立した深瀬社長。今では、動画を「作って納品するもの」だけではなく、企業が自ら発信し、会社や地域を変えていくための手段として捉えています。そしてAIによって誰もが同じ技術を使えるようになっていくからこそ、最後に差になるのは、相手の気持ちを考え、自分で判断し、動けること。これまで何をしてきたかだけではなく、「これから何をしたいのか。そのために、今まで自分で何をしてきたのか」を大切にする深瀬社長の言葉は、これからクリエイティブの世界を目指す人にとっても、一つのヒントになりそうです。深瀬社長、本日は貴重なお話をありがとうございました。

