「好きなら、意味がわからないレベルでやる。」株式会社からのもぬけ・船津社長が、謎解きを仕事にするまで

遊びに行ける謎解きイベントを、片っ端から遊び尽くす。

東京で遊べるものがなくなれば、別の会社のイベントへ。それもなくなれば東京を飛び出し、各地のイベントへ。それでもとうとう「遊ぶものがなくなった」とき、船津大地社長が選んだのは、「じゃあ、自分で作ろう」という道でした。

現在、株式会社からのもぬけの代表取締役として、謎解きをはじめとする体験型コンテンツの企画・制作を手がける船津社長。しかし、もともとイベント業界で働いていたわけではありません。

長く身を置いていたのは教育業界。過酷な働き方の中で心身を崩し、一度は働けなくなった時期もありました。そんなときに出会った脱出ゲームにのめり込み、やがて遊ぶ側から作る側へ。副業として始めた謎解きが仕事になり、現在へとつながっています。

「本当は社長なんてやりたくない」と笑いながらも、仲間が増えたことで会社を設立し、今は「クリエイターを守れる状態」をつくることにも向き合っています。

船津社長が考える、面白いコンテンツとは何なのか。

そして、「好きなことを仕事にしたい」と考える若い世代に伝えたいこととは。

これまでのキャリアとともに、詳しくお話を伺いました。

お話を伺った人

株式会社からのもぬけ

代表取締役 船津 大地

教育業界で約7〜8年にわたり勤務した後、謎解き・脱出ゲームとの出会いをきっかけに、自ら体験型コンテンツの制作を開始。副業として活動を始め、謎解きイベントの企画・制作を本業化。個人での活動を経て、2026年に株式会社からのもぬけを設立。現在は自身もクリエイターとして活動しながら、複数のクリエイターとともに体験型コンテンツを制作している。

目次

遊ぶ謎解きがなくなった。「じゃあ、自分で作ろう」から始まった

編集部

船津社長って、小さい頃から謎解きがお好きだったんですか?

船津社長

そうですね。小さい頃から謎解きとか暗号の本を読むのは好きでした。ミステリーもよく読んでいましたね。ただ、もともと自分がやっていたのは音楽だったので、謎解きの道に進もうとは全然考えていなかったんですけどね。

編集部

社会人になってからは、教育業界で働かれていたんですよね。

船津社長

はい。塾の業界で7〜8年くらい働いていました。ただ、最初の頃は結構大変な働き方をしていて。ほとんど休まず働くような時期もあって、一度メンタルを崩して働けなくなったことがあるんです。その時期のちょうど誕生日、「ちょっと行ってみようかな」という感じで脱出ゲームにふらっと参加したんです。それが今の仕事につながる最初のきっかけでしたね。

編集部

一度参加して、そこから一気にハマっていったんですか?

船津社長

はい。めちゃくちゃハマりました(笑)。最初は東京でやっているイベントに行って、そこのものを全部やったら、今度は別の会社のイベントへ行って。それも全部やったら、東京以外でもやっていると知って、今度は地方にも行くようになりました。

編集部

全部やり尽くしてるじゃないですか(笑)。

船津社長

そうなんですよ(笑)。そのうち、本当に遊びに行くものがなくなって。「これ、どうしようかな」と考えて、じゃあ自分で作るかと思ってイベントをやり始めたんです。

編集部

自分で作るか、という発想がすごいですね…!最初は会社員を続けながら、副業としてやられていたんですか?

船津社長

そうです。その頃はまだ塾でも働いていました。でも謎解きの方も反響があって、ちゃんと売上も出るようになってきたので、「このくらい収益が出るなら、謎解き一本でもいけるんじゃないか」と思ったのが、本格的に仕事にしたきっかけですね。

「本当は社長なんてやりたくない」。それでも法人化した理由

編集部

個人でも長く活動されていた中で、2026年に法人化されていますよね。これは何か大きなきっかけがあったんですか?

船津社長

一番大きいのは、僕の下で一緒にやってくれる人が増えたことですね。個人でやっていたとはいえ、いろんな人に協力してもらっていました。その人数が増えてくると、さすがに法人にした方がいいかな、と。

編集部

会社を大きくしたかった、というより、人が増えたから法人という箱が必要になったということですね。

船津社長

そうですね。僕、もともと起業したい人間でも、経営者になりたい人間でもないんですよ。どちらかというと、根はクリエイターです。

編集部

「社長になりたい」から始まったわけではないんですね。

船津社長

むしろ、本当は社長なんてやりたくないです(笑)。人の人生の責任を負いたくないですし。僕自身、別に精神的にものすごく強い人間でもないので、「自分みたいな人間が社長とか、あんまりしない方がいいんじゃないかな」なんて思っていました。

編集部

それでも、やる必要が出てきたと。

船津社長

そうですね。一緒にやってくれるクリエイターが増えて、その人たちが仕事をしやすい状態をつくりたいと思うようになった。僕自身もクリエイターなので、クリエイターを守れる状態をつくることが一番大事だと思っています。

編集部

クリエイターを守れる状態…。実際に、働く環境も一人ひとりに合わせているんでしょうか?

船津社長

なるべくそうしていますね。その人が一番作りやすい環境だったり、その人がやりたいことを実現できる状況だったり。全員に同じやり方を押しつけるのではなくて、一人ひとりに合わせたいと思っています。

編集部

ご自身が「普通の働き方」でしんどい思いをした経験も、多少影響していそうですね。

船津社長

あると思います。今、正社員として迎えようとしている人の中にも、以前普通の会社で働いていたけど、うまく働けなくなってしまったという人がいます。でも、その人にはその人の得意なことがある。だったら、その人がやりやすい形をつくればいい。そういう考えです。

テーマがまとまっていて、その人が作った意味があるもの。それが、良いコンテンツ

編集部

船津社長って、これまでかなりの数の謎解きを体験して、ご自身でも作られてきたわけじゃないですか。プロの目から見て、「いい謎解き」と「そうではないもの」って、何が違うんでしょう?

船津社長

僕の中では、大きく二つあります。一つは、ちゃんとテーマが一つにまとまっていること。謎って、作ろうと思えばいろんな要素を入れられるんですよ。でも、全部バラバラだと作品としてまとまらない。振り返ったときに、一本の道としてつながっているかどうかはすごく意識しています。

編集部

難しい謎をたくさん入れればいい、というわけではないんですね。

船津社長

そうなんです。もう一つ大事なのが、その人が作った意味があるコンテンツであることです。謎解きを作る人も増えましたし、もちろん頭のいい人や、すごく技術のある人もいます。でも、プレイヤー全員が、とにかく難しい問題だけを求めているわけじゃないですよね。

編集部

確かに。初心者もいれば、ストーリーを楽しみたい人もいますよね。

船津社長

はい。その人が「これが好き」「これがいい」と思っていることを、ちゃんと作品として表現できているか。僕はそこがすごく大事だと思っています。最近よく言うんですけど、「愛があるかどうか」に近いですね。

編集部

愛。

船津社長

好きかどうかって、結局お客さんにも伝わると思うんです。たとえばディズニーに行って、キャストさんがディズニーを全然好きじゃなさそうだったら、ちょっと嫌じゃないですか。長く続いているコンテンツほど、ファンの方がめちゃくちゃ詳しくなる。だから、作る側に本当に愛があるかどうかって、意外とわかっちゃうと思うんですよ。

編集部

技術よりも、その人自身の「好き」が作品に乗っているかどうか、ということですね。

船津社長

そうですね。別に大衆受けするものを作るのも全然いいんですよ。その人が「多くの人に楽しんでもらいたい」と思って作っているなら、それもその人の表現ですから。僕が一番良くないと思うのは、誰に届けたいのか、何を作りたいのかがわからなくなっているコンテンツなんですよね。

普通に生きていたら出会わなかったものに、出会える

編集部

そもそも船津社長にとって、謎解きや体験型コンテンツの魅力って何なんでしょう?よく「非日常感」とか「没入感」と言いますけど、それだけではなさそうな気がして。

船津社長

僕は、自分の中になかった価値観を取り入れる瞬間が好きなんだと思います。体験型コンテンツには、それが結構詰まっている気がしますね。

編集部

自分の中になかった価値観。

船津社長

例えばですけど、普通に生活していたら、自分が冒険者になることも、戦士になることもないじゃないですか(笑)。でも、体験型コンテンツなら、それを経験させてもらえる。

編集部

確かに(笑)。自分ではない誰かになれますね。

船津社長

そうです。体験だけじゃなくて、考え方もそうですね。謎解きって頭を使うので、「こんな考え方したことなかったな」と思う瞬間が結構あるんですよ。例えば、本を読んでいて「こんな視点、持ったことなかったな」と思う感覚…。それに近いと思います。

編集部

自分の中が少しアップデートされるような。

船津社長

そうですね。新しい価値観を与えられたときの衝撃って、すごく大きいじゃないですか。そういうものを体験できるのが、僕にとっては面白いところなんだと思います。

編集部

ちなみに、船津社長がコンテンツを作っていて一番嬉しいのって、お客さんが喜んでいる姿を見るときですか?

船津社長

いや、僕、実は全然見に行かないんですよ(笑)。

編集部

えっ、意外です(笑)。

船津社長

もちろん感想は見ますし、楽しんでもらえるように全力ではやりますよ。でも、自分のやりがいってそこだけじゃないんです。僕は昔から、根本的に何かを作ること自体が好きなんですよ。だから綺麗なものとか、美しいものを作れたときが一番嬉しいんです。

編集部

本当にクリエイターなんですね。

船津社長

そうなんだと思います。自分がいいと思えないものを作る意味はないですし。どういう人に届けるかを考えて、仕組みを作って、それが一つの作品としてまとまっていく。その過程自体が楽しいんでしょうね。

「好きなことを仕事にしたい」なら、人に引かれるくらい好きであれ

編集部

ここまで伺うと、船津社長はまさに「好きなことを仕事にした人」ですよね。一方で、今は経営者になって、税金や給与の手続きだったり、資金調達だったり、自分が好きなクリエイティブ以外のこともしなければいけない。好きなことを仕事にすると、逆に嫌いになってしまうこともあるんじゃないかなと思うんです。

船津社長

好きなことをするために、嫌いなことをやらなきゃいけない…。はい、確かに全然ありますね。税金のあれこれとか、もうしたくないです(笑)。

編集部

それでも「好きなことを仕事にしたい」と考える若い人から、弊社のキャリアアドバイザーに、かなりの数のご相談をいただくんですよ。そういう人に、船津社長から伝えたいことはありますか?

船津社長

そうですね。僕が思うのは、本当に好きなことを仕事にしている人って、好きだから、意味がわからないレベルでやるんですよ。

編集部

意味がわからないレベル(笑)。

船津社長

そう(笑)。好きなことって、没頭できること、熱中できることだと思うんです。それをやる以上に、自分がやりたいことがない。だから仕事にできるんじゃないかなと思っています。

編集部

「好きだから仕事にしたい」という気持ちより、その前にもう勝手にやり続けている状態。

船津社長

そうですね。僕が今一緒に働いている人からは、謎解きが好きだから毎週末、何時間もかけて都内まで来て謎解きをやって帰る、みたいな話を聞くこともあるんですけどね。そこまで好きだったら、仕事になる可能性はあると思います。

編集部

その人自身が、もう止められなくなっているくらい。

船津社長

そうです。だから、自分がそのことについて話したときに、人に引かれるくらいの熱量を持っているかって結構大事だと思います。「わかる、私もそのくらい好き」で終わるなら、まだ普通なのかもしれない。「え、そこまでやるの?」って相手に言われるくらいなら、その熱量は本物なんじゃないですかね。

編集部

船津社長自身も、まさにそうですよね。好きだから遊び続けて、なくなったら「じゃあ自分で作ろう」と作り始めた。好きなことを仕事にしようと決めたというより、好きすぎて続けた先に、仕事ができていたという方が近いのかもしれません。そして、仕事になったからこそ、今は自分が作るだけではなく、クリエイターがその人らしく作れる環境を守る側にも立っています。好きなことを仕事にすると、楽しいことだけではなく、面倒なことや大変なことまで背負うことになる。それでも続けられるのは、その全部を差し引いても、まだ「作りたい」が残るからなのだと思います。船津社長のお話からは、「好きなことを仕事にする」という言葉の、華やかな部分だけではないリアルと、それでも好きだからこそ続けられ、その熱量が仕事へ変わっていく面白さが伝わってきました。船津社長、本日は貴重なお話をありがとうございました。 

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