「ブームが来る前に引退した人間なんです。」元日本一プロゲーマー、株式会社PACkage・山口代表が“第2の万博”を目指すまで

ゲーム会社に「大会を開きたい」と相談したところ、返ってきたのは、「法人にしてくれないと許可できない」という言葉でした。
当時、山口勇さんは大学2年生。オンラインゲームの選手として活動し、所属チームでは日本一やアジア一を経験。その後は選手からマネージャーへ回り、Webサイト制作や広報、イベント企画にも携わるようになっていました。
大会を開くために法人が必要なら、会社をつくればいい。そんな流れから誕生したのが、株式会社PACkageです。
現在はeスポーツイベントの企画・運営を中心に、配信やタレントマネジメント、学校での授業などの教育事業にも事業を拡大。大阪府主催のeスポーツイベント『Osaka GeN Scramble』で全体プロデュースを担うなど、山口代表がその先に描いているのは、一つの会場だけではなく、街全体を使って人が遊び、これまで知らなかったものに出会えるイベントです。
プレイヤーだった山口代表が、なぜイベントをつくる側へ回ったのか。eスポーツを仕事にすることの現実や、これから一緒に働きたい人について伺いました。
株式会社PACkage
代表取締役 山口 勇
小中学生の頃からオンラインゲームや動画配信に親しみ、学生時代には『Rainbow Six Siege(レインボーシックス シージ)』のeスポーツチームの選手として活動。日本一、アジア一を経験したのち、マネージャーとしてWebサイト制作や広報、イベント企画にも携わる。大学在学中、eスポーツイベントの開催をきっかけに株式会社PACkageを設立。現在はイベントの企画・運営を中心に、配信やタレントマネジメント、教育事業など幅広く事業を展開。一般社団法人大阪府eスポーツ連合 理事。
ブームが来る前に引退した人間なんです
編集部山口代表とゲームとの関わりは、かなり昔からなんですよね。



小学校、中学校くらいまで遡りますね。ニコニコ動画やYouTubeで動画を配信したり、それより前からオンラインゲームにもかなりハマっていて。ずっとプレイヤーとしてゲームをしていました。高校、大学と進む中で、ゲームがそこそこ上手かったのでスカウトしていただいて、チームをつくったんです。当時はまだ「eスポーツ」という言葉も今ほど一般的ではなくて、本当にゲームの大会へ出るチーム、という感じでした。



そこから、日本一やアジア一まで経験されたんですよね。



そうですね。活動していく中でスポンサーもついて、いわゆるプロゲーマーと呼ばれるような形になりました。ただ、大学2年生くらいになると、僕は大学にも通っていて教職課程も取っていたので、ゲームだけに時間を使うのが難しくなってきたんです。周りはゲームにかなり時間を使っていましたから、だんだんレギュラーを取られて、大会にも出られなくなっていきました。



そのタイミングで、選手を辞めることになったんですか?



チームを離れる話もあったんですけど、当時の代表から、「裏方で残ってほしい」と言ってもらえたんです。僕はチームのWebサイトをつくったり、マーケティングや広報もやっていたので。それでマネージャーとして残って、イベントにも関わるようになりました。



選手としては区切りがついても、ゲームとの関わり方は残ったんですね。



そうですね。ちなみに、日本で「eスポーツ元年」と言われたのが2018年頃なんですけど、僕が選手を引退したのが2017年の9月くらいなので。ブームが来る前に引退した人間なんです(笑)。
じゃあ、自分でイベントを作ろう



選手を辞めた頃には、将来もeスポーツ業界で働こうと考えていたんでしょうか?



いや、もともとはゲームクリエイターになりたかったんです。昔から好きなゲームがあって、ゲームをやるよりもつくる会社へ行きたいと思っていました。大学でもゲームをつくっていたんですけど、当時は学生がつくったゲームを発表したり、誰かに遊んでもらったりする場所が今ほどなかったんですよ。



せっかくつくっても、それを人に届ける場所が少なかったんですね。



そうなんです。イベントに出ようとしても抽選に落ちたりして。それなら、「じゃあ、自分でイベントを作ろう」と思って、大学のサークルでイベントを始めました。ただ、学生のつくったゲームだけだと、なかなか人を呼ぶのも難しい。そこで、自分が持っていた武器がeスポーツチームだったので、ゲームの大会と学生のイベントを組み合わせながら、少しずつ活動を広げていきました。



そこから、大学在学中に会社をつくることになったんですよね。



そうですね。企業の方から「もっとフラットなコミュニティ大会なら協力するよ」と声をかけていただいて、大会をやろうという話になったんです。それでゲーム会社さんへ「大会を開催したいので許可をください」と相談したら、賞金も絡むので、「法人にしてくれないと許可できない」と言われてしまって。



イベントを実現するには、まず法人が必要だった。



そうなんです。どうしようかなと考えていた頃に、会社のつくり方に関する動画などを見て、「意外と会社ってつくれるんだ」と思って。当時まだ大学2年生でしたし、ゲーム会社へ就職したい気持ちも残っていたので、「とりあえず1年やってみて、ダメだったら就活すればいいか」くらいの感覚で会社を立ち上げました。



最初から「起業家になろう」と考えていたわけではなかったんですね。



全然ですね。イベントをやるために必要だったから、というのが一番最初です。ただ、イベントをするなら大阪でやりたい、という気持ちはありました。大きなゲームイベントって、どうしても東京が多いじゃないですか。大阪にもあるけど、「東京の次だよね」という感じがあったので、それを変えたいという思いはありました。
プロゲーマーとして食べていくには覚悟と自己管理が必要



プロゲーマーに憧れる若い方も多いと思います。実際に選手として日本一まで経験した山口代表から見ると、プロゲーマーとして食べていくのはやっぱり厳しいものなんですか?



簡単ではないと思います。野球やサッカーと同じですね。小学生で野球をしている人はたくさんいますけど、その中でプロになって食べていける人はほんの一部じゃないですか。僕も日本一にはなりましたけど、何千人といる中で日本一になるような世界なので、そこへ行くには相当な努力も必要ですし、才能もあると思います。



好きで始めたゲームでも、競技になると楽しさの種類も変わってきそうですね。



変わりますね。普通にゲームをしていて楽しいというのは、レクリエーションとしての楽しさだと思うんです。でも、本気で日本一を目指している人の楽しさは、競技として勝つことに対する楽しさなんですよ。僕も高校、大学の頃は、学校の授業が18時半くらいに終わって、19時半くらいに家へ帰って、そこから夜中の3時くらいまで練習していました。次の日の授業が昼からなら、朝までやります。その生活を毎日できるか、という話なんです。



それでも続けられる人が、競技としてゲームをやっている。



そうですね。勝ちたいからやっているのであって、ただゲームを遊ぶ楽しさだけを求めているわけではないんですよね。しかも今は、「ゲームだけやっていればいい」という時代でもなくなってきています。というのも、運動したり、食生活を整えたりすることも必要だと言われるようになってきたんですよ。サッカー選手だって、サッカーだけやっているわけではないですよね。筋トレもするし、ランニングもする。eスポーツも同じで、ゲームするだけでいい時代は終わったと思っています。



「好きだから仕事にしたい」だけではなく、その裏側の努力まで含めて続けられるかが大事なんですね。



そうだと思います。ゲームが好きという気持ちはもちろん大事ですけど、競技として上を目指すのであれば、それだけでは足りないと思いますね。
街全体を使ったイベントを作りたい



選手として始まった山口代表が、今は大阪府のeスポーツ事業にも携わっていますよね。



そうですね。大阪府でもeスポーツに力を入れていこうという動きがあって、その事業のプロポーザルに参加しました。事務局部分は一緒に提案した会社、企画や運営・制作部分は僕たちという形で提案して、採択していただきましたね。2026年1月から2月にかけて、大阪府主催の『Osaka GeN Scramble(ジェンスク)』として、梅田エリアの複数会場を使って開催し、3日間で延べ約6.4万人の方に来場いただきました。PACkageとして、大阪でかなり早い時期からeスポーツに関わってきたことや、企画の内容などを評価していただけたのかなと思っています。


写真▶主催:大阪府



その先には、どんなイベントをつくりたいと考えていますか?



最終的には、街全体を使ったイベントをつくりたいと思っています。万博もそうだったと思うんですけど、メインの会場だけではなくて、大阪駅や難波にもいろいろな装飾やイベントがあって、街のいろいろなところで万博を感じられたじゃないですか。ああいうものをつくりたいんです。



中心になるのは、やっぱりeスポーツなんでしょうか?



eスポーツだけじゃなくていいと思っています。たまたま僕がゲームを好きで、選手をしていたからeスポーツから入っていますけど、音楽でも、アニメでも、フードでもいい。いろいろなものが街の中にあるイベントにしたいですね。



一つの目的で来た人が、別のものにも出会えるような。



そうです。たとえばフードフェスへ行った人が、ずっと一日中食べているのもしんどいから、「ちょっと違うものを見よう」と歩いていたらeスポーツの会場がある。そこで大会を見て、「何これ、めっちゃすごいやん」となって、次から配信を見るようになるかもしれない。そういう入り口をつくってあげたいんです。見ても楽しめる、体験しても楽しめる。それまで知らなかったものに出会える。そういう場所をつくりたいと思っています。



会場そのものを大きくするというより、街の中にいくつもの入り口をつくっていくイメージなんですね。



そうですね。日本のイベントって、一つの会場で完結するものが多いと思うんです。もちろんそれもいいんですけど、街全体がイベントになる形をやってみたい。20年くらい先には、言い方は大きいですけど、「第2の万博」みたいなものをオーガナイズできる会社になりたいと思っています。半年間はさすがに難しいですけど、1ヶ月くらい街を使って開催できるようなイベントにしたいですね。
「知らないこと」より、「必要なときに学べるか」


写真▶提供:株式会社PACkage



そこまで大きなイベントを目指すとなると、これから一緒に働く人には、どんなことを求めますか?



僕が一緒に働きたいのは、とにかく学んでいける人です。プロゲーマーの話と同じで、トップ・オブ・トップになるには才能も必要。でも、努力で行ける部分もかなりあると思っていて。才能がある人が来てくれたらもちろんうれしいですけど、それよりも仕事の中から学んで、仕事以外のところからも学んで、それを仕事に生かせる人がいいですね。



山口代表自身も、最初からイベントづくりの知識があったわけではないですもんね。



そうです。僕も最初は、ただのゲーマーで、イベントをつくる側の人間では全然なかったので。それでも10年くらいやって、少しずつ大きな仕事も任せていただけるようになりました。仕事からも学びますけど、僕はアニメを見ていても、「この人はなんでこう考えたんだろう」とか、「この失敗って、自分の仕事と似ているところはないかな」と考えたりするんですよ。それくらい、いろいろなところから学べる人がマッチすると思います。



ゲームが好きであること以上に、そこから何を学べるかを見る。



そうですね。ゲームが好きなのはいいんですけど、たとえば「サッカーがやりたい」と言って、ボールを蹴ることしかしたくない人だと難しいと思うんです。本当に上手くなりたいなら、ドリブルの練習もするし、ランニングもするじゃないですか。そこまでやれる人と働きたいですね。



イベントの仕事も、華やかに見える部分だけではなさそうですもんね。



その通りですね。時間をかければいいものはつくれますけど、実際には予算も時間も限られています。その限られた資源の中で、最後までしっかりやれる人。やり切った上で、「ここまで」と割り切れる人がいいですね。



ちなみに、未経験からでもこの業界に入るチャンスはありますか?



全然あります。新卒もインターンから採用することが多いですし、中途の方にも、夜に無料で業界を学べるオンラインのインターンプログラムをやっています。ただ、その講座を受けたからといって、うちに入らないといけないわけでもないですけどね。



ゲームの知識も、最初からすべて持っている必要はない?



なくても大丈夫です。イベントで扱うゲームが11タイトルあったら、全部やったことがある人なんてほぼいないですから(笑)。僕自身も、仕事で初めて知るタイトルがあります。だから、知らないことが問題なんじゃなくて、必要になったときにちゃんと学べるかどうかですね。嫌いじゃなければ、それでいいと思います。



まだ新しい業界だからこそ、自分から学びながら仕事そのものをつくっていく余地もありそうですね。



そうですね。eスポーツはまだ新しい業界なので、「一般的にはこれが普通」という型が、まだそんなにないと思うんです。だからこそ、自分で考えて「こういうものをつくっていきたい」と動ける人には、面白い業界だと思います。実践しながら、自分たちで形をつくっていく。そこは大変なところでもありますけど、面白いところでもありますね。



選手として日本一を目指していた頃から、マネージャー、イベント企画、そして大学在学中の起業へ。山口代表のキャリアは、最初から今の形を目指して描かれていたものではありません。大会を開く場所がなければ自分でつくり、法人が必要なら会社をつくる。イベントの仕事も、必要になったことを一つずつ学びながら身につけてきました。だからこそ、一緒に働く人に求めるのも、最初から何でも知っていることではなく、「必要になったときに学べること」。その先に山口代表が描いているのは、eスポーツだけに閉じず、さまざまな人や文化が交わる街全体のイベントです。山口代表、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
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